おしゃれなアイテムになったトレーナー

10月10日はトレーナーの日です。1999年まで10月10日が体育の日だったことにちなんでスポーツウェアとしてのトレーナーをPRするために愛知県のファションメーカーミシマヤによって制定されました。

ただ、「トレーナー」って最近あまり使わなくないですか?ネットで検索すると洋服のトレーナーも出てきますが、カリスマトレーナーのAYAさんみたいなスポーツトレーナーを意味する「トレーナー」の方がよく使われている印象で、洋服のトレーナーはどちらかというと「スウェットシャツ」もしくは「スウェット」と呼ばれていることの方が多い気がします。

この2つはどう違うのでしょうか?

まずはトレーナーがどんな経緯で誕生したのかを見ていくと…

もともとトレーナーが生まれるきっかけはジャージでした。

ジャージは伸縮性のある厚手のメリヤス編みの生地のことで、ジャージ生地で作られた衣類製品のことを総称してジャージと呼ぶことが多いようです。「ジャージ」というと、前開きがジッパーで袖口や足首、襟がリブ編み、袖やパンツのサイドにラインが入った上下セットの学校のイモジャージ…が浮かんでくる人が多いのではないかと思うのですが、元は生地の名前です。本来ジャージは「ジャージー」が正しく、「ジャージ」は通称です。

ジャージ生地の特性として伸縮性や耐久性に優れているので、身体を大きく動かすスポーツやトレーニングなどに着用する服に使われてきました。厚手なので学校の冬の体育の授業に使うのに向いていたんですね。夏場などは半袖の体操服がありましたから(私が中学生の時は下はブルマでした。キャー)ただ、汗をかくほどの運動量になると吸湿性には劣っていたのが難点でした。

そこを補う形で吸湿性に富んだパイル生地か、起毛した綿ジャージを裏地に使った「スウェット」が誕生しました。ちなみに「スウェット」は英語で「汗」の意味で、(スポーツによる)汗を吸水する生地というのがスウェット生地の語源です。

ここで気になるのが、ジャージ生地を補う用途で開発されたのは「スウェット」であって、「トレーナー」ではありません。

ですがトレーナーも裏地はパイル生地や起毛した綿ジャージですし、スウェットとはあまり違いがないように感じます。実は、トレーナーとはスウェットと基本的に同じものであり、生地、形など両者にあまり違いはありません。

ではなぜ、スウェットを「スウェット」と呼ばずに「トレーナー」と別の名前がついたのでしょうか。

スウェットは、スウェット生地を使用して作られた製品のことを指し、主に上半身に着るスウェットシャツのことを言います。下に履くのはスウェットパンツ、上下セットはスウェットスーツと呼ばれますね。

「トレーナー」はスウェットシャツのことを指す和製英語で、日本独特の表現です。アメリカのアイビールックを日本に紹介したVAN(ヴァン)の創業者である石津謙介氏がトレーニングウェア、トレーニングシャツから名付けました。なので、海外でトレーナーと言っても通じません。最近では「ユニクロ」などトレーナーを扱っているような企業が海外へ進出しているので、通じない「トレーナー」ではなく「スウェット」と呼ぶことの方が多くなっているのだと思います。

ですから「トレーナー」も「スウェット」も基本的には同じものです。

ですが、トレーナーはスポーツやトレーニングの際の身体の動きに適応させるため、ラグランスリーブや襟周り、袖口、裾をゴムやリブ編みにして動きやすくしており、より伸縮性を持たせているものが多いのが特徴です。スウェットはその限りではありません。

このトレーナーは本来スポーツ選手のトレーニングウェアとして用いられていたものですが、1960年代初期の頃スポーツウェアの一般化からTシャツと同じような感覚で街着や部屋着に使われるようになりました。とてもカジュアルなアイテムですしアイビールック(アメリカ東部の伝統的な学生スタイル)でもあるので、学生さんが着ることが多く、スクールガールファッションが見られる1978年の映画「グリース」でもオリビア・ニュートン・ジョンやその友人たちが着ていますが、どちらかというと真面目でイケてない女の子が着る服の扱いを受けています。

95年製作の当時の女の子のファッションバイブル的な映画「クルーレス」ではアリシア・シルバーストーンがフィールドワークのシーンでピンクのトレーナーらしきものを着ていますが、典型的なトレーナーではなく薄手のカットソーと言えるものかな…という感じです。

90年代に一世を風靡した「ビバリーヒルズ高校白書」や2006年のTV映画「ハイスクール・ミュージカル」2009年から2015年まで放映されたドラマ「glee」など高校を舞台にしたものを見ても男の子はよくトレーナーを着ていますが、女の子はもっとセクシーな服を着ていて、トレーナーを着ているのをほとんど見ることはありません。どうやらトレーナーは部屋着としては優秀だけど、外で着るのはダサい…という扱いを受けてきたようです。

しかし、2016年頃から少し様子が変わってきます。アメリカから起こった「アスレジャー」(アスレチック(運動)とレジャー(自由な時間)を組み合わせた造語でジムやヨガなどで着用するスポーツウェアやトレーニングウェアにモードなアイテムを組み合わせたファッションスタイル)が世界的ブームになってきたからなのか、「ヴェトモン」や「コシェ」、「MSGM」などストリートスタイルを得意とするブランドがトレンドを牽引しだしたからなのか、2015年まではコレクションでほとんど見ることがなかったトレーナー的アイテムが登場し始めます。

今季にはストリート系のブランドだけでなくヴィトンやグッチのラグジュアリーブランドやフェンディやトムフォーどなどのゴージャスブランドまで、多くのブランドがおしゃれなトレーナーを発表しています。(パーカーやTシャツは以前からずっと登場していましたが。)ここ2年ほど流行っているロゴやタイポグラフィーなどが載せやすいアイテムというのもあるかもしれませんね。

元々はトレーニングウェアだったということもあって、何と言ってもトレーナーは着心地がよく、お手入れも楽でジャブジャブ洗えます。それがおしゃれに見えるのなら外出着にも使いたくなっちゃいます。気候的にも今の時期トレーナーは丁度いいですよね。一工夫あるおしゃれなトレーナーでどんどん街に出かけましょう!

color&image consultant SACHIKO TAKEMURA

カラーとファッション、メイクのコンサルタント。 スタイリングアドバイスや企業研修、講演、イベント など多数の企業で実績あり。