黒ってどんな色?

9月6日は黒の日です。

黒の基本的なイメージはクール、高級な、フォーマルな、厳粛な、美しいなどの良いものと、死、陰、闇、悪魔、重々しい、悲しい、負け、不吉などの悪いものの差がすごく激しいです。つまりそれだけ印象の強い色だということです。

使うシチュエーションとしては、周りから自分を守りたい時、不安を隠したい時、傷つきたくない時、一人になりたい時など、心を守りたいと思う時に使うといいとされています。ただし反面、気持ちが落ち込んで自分の不幸を感じやすくなるとか、協調性がなくなるとか、笑わなくなる、喋らなくなるなど自分の殻に閉じこもってしまいがちにもなるので、使いすぎには要注意ですね。

黒が大好きな人は、感性が鋭い、無理に嫌な人と調子を合わせたくない、命令されるのが嫌い、意思が強固で独立心に燃えているといった孤高の人です。デザイナーやアーティストに黒好きな人が多いのも納得です。

黒のエピソードも色々あって、服やインテリアにあまり使いすぎると肌のハリ、つや、潤いが失われてしまうとか、家庭や職場で目の高さよりも上に黒を使いすぎると病気になりやすいとか、男性優位のイスラム圏の国では女性が黒のヒジャブを身につけますが、それは男性に守ってもらうためであり、妻や母の役割を果たすために自分の個性を封じこめるためだとか、聖職者の着る黒は俗世の色欲を断ち切る戒めの色だとか、中国の五行説では黒が北を表し、冥土の世界に通じているため、古くから喪の色として使われていて、死者を北枕で寝かせるのはそのためだとか…。

全般的に見て赤と並び、太古の昔から夜の闇や陰など人類が身近に感じていた色なので、とても影響の強い色と言えます。(因みに赤は太陽や夕焼け、血、火などで感じていました。)

ファッションの歴史上、初めて黒が流行したのは16世紀後半です。それまでのドイツ風のけばけばしい格好や北欧調の鮮やかで明るい色からスペイン風の厳粛で洗練された高雅なスタイルと黒などのダークな色に変わった時です。ただし地味になったのではなく、高価な織物に宝石をちりばめて、夜の星空のように宝石の輝きを引き立てるために黒がうってつけだったということで、とても贅沢なものでした。この頃の黒の使い方が、今の黒の良いイメージを作り上げたのかもしれません。

現代のファッションになって初めて黒が注目されたのは1926年にココ・シャネルが「リトル・ブラック・ドレス」を発表した時です。それまで喪服として用いられていた黒一色のドレスを、シンプルかつ完璧なデザインで「モード」に昇華させました。彼女自身もよく黒を身につけていて、本物ではないコスチュームジュエリーをたくさん身につけていました。贅沢さはないですが16世紀後半の黒の使い方と似ていますね。この「リトル・ブラック・ドレス」はフォーマルからパーティー、ビジネス、オシャレ着と使い回しの融通がきき、女性の魅力を引き立たせることから欧米では今日に至るまで女性の必需品とされています。黒はとても便利な定番の服と私たちも思っていますよね。

日本で黒が注目されたのは1980年代、コム・デ・ギャルソンの川久保玲とヨウジヤマモトの山本耀司が同時期にパリコレクションで黒の重く、暗いといった悪いイメージを逆手にとったデザインを発表した時です。全身を黒で身にまとい、布切れ同然のカッティングを施したり、穴の空いたボロニットのようなデザインにし。カラスのような漆黒の世界観を作り出し、世界を驚愕させました。「黒の衝撃」と称されファッションに革命を起こしたと言われています。当時よく街中で「カラス族」と呼ばれる、ずるずるとした黒づくめのファッションをした人たちを見かけたものです。当時中学生だった私はなんとなく怖い…と思ってしまってました。

ファッションで使われる黒は、高級感やフォーマル感といったきちんとした印象を打ち出すというそれまでの感覚を、暗くて不吉といった悪いイメージで使ってもファッション足り得ると認識させ、ファッションの中での黒の振り幅が大きくなったエポックメイキングな出来事でした。

パーソナルカラー診断などを受けると、診断するシステムによっては、あるグループの人は黒は避けたほうがいいと言われてしまうことがあります。ただ、私が行っている診断では黒はどのタイプの人にも使ってもらえる色だという位置付けです。黒は素材によってすごく変化に富んでいて様々なニュアンスがあります。透き通るほのかな黒、深みのある気品を備えたビロードの黒、タフタの豪華な黒、サテンのような光沢のある冷たい黒、ウールのように石炭を連想させる温かみのある黒、木綿の黒にはひなびたようなナチュラルな印象が伺えます。そのニュアンスによってどんな人にも使える黒はあるという考え方です。定番の色であり、フォーマルな場では欠かせない、とても魅力に富んだ黒を使えないと言われるのは悲しいですよね。

「私には黒があまり似合わない…」と思っている方は是非いろんな素材の黒を試着してみてください。「これならいいかも…」と思える黒がきっとあるはずです。そんなに手間かけてられないという方は一度診断を受けられることをお勧めしたいです。

私自身5年ほどの間、黒の服に飽きてしまい、どちらかというと避けていた感があります。でも、最近になって、普段着使用の服に「やっぱり便利だから」と思い黒の服を数点買いました。着てみると、着回しの簡単さや汚れを気にしなくていいという機能性、着てると何だか安心する気もして改めて黒っていいなと再認識しました。9月6日の黒の日に自分の思う黒のイメージでコーディネートして集まるパーティーなんかあったら面白いな…とか思いながらこのコラムを終えたいと思います。

color&image consultant SACHIKO TAKEMURA

カラーとファッション、メイクのコンサルタント。 スタイリングアドバイスや企業研修、講演、イベント など多数の企業で実績あり。