「未来的」イメージはいつまで未来的なの?’18-19AW Fashion Trend Series③

18年春夏シーズンに引き続き、来季も未来的イメージのトレンドが広がります。

前シーズンはPVCを使った透明素材のものやシルバーのものが特に注目でしたが、その流れは残ります。今季特に注目のものとしてはネオンカラーや玉虫色の光沢素材、ケミカル素材のフリンジなど。全身未来的というのもあれば、英国調のクラシックな素材と組み合わせたり、スポーツテイストとミックスしたスタイルなども登場しています。未来的イメージといってもカッティングやラインで表現するものではなく、人工的なケミカル素材を使うというのが主流になっています。

未来的イメージのファッションが最初に登場したのは1960年代。1961年にガガーリンが世界初の宇宙飛行に成功し、69年にはアームストロングが月面歩行に成功して人々は宇宙に夢を馳せ、新しい時代の到来を感じ、それに伴い服装も変化しました。1964年にアンドレ・クレージュが世界初の未来的イメージのファッション、「宇宙ルック」を発表し話題をさらいます。それは幾何学的カットの光沢のある白や銀色の上着とパンツに白いブーツを履いたもので、当時は「まるで宇宙から直接地球に降り立った異星人のようだ。」と思われました。この「宇宙ルック」は60年代に最も多くコピーされたデザインになりました。

ピエール・カルダンも未来的なアイデアに魅せられた一人でロボットの顔に似合うような服をデザインし、60年代のアヴァンギャルドなファッションの主導者になりました。

未来的な素材使いで言うと、なんといってもパコ・ラバンヌです。1966年にプラスチック板で作ったドレスやアルミニウムなどのメタルで作ったドレスなどをデザインし、ハリウッドでもてはやされ、67年には「バーバレラ」や「007/カジノロワイヤル」、「いつも2人で」など多くの映画で衣装デザインを手がけています。

70年代には60年代のヒッピーやウッドストック、フラワームーブメントなど自然回帰への反動で「人工的」で「未来志向」のカウンターカルチャーとして生まれたグラムロックが登場します。グリッターなギラギラ光る素材を使ったきらびやかでゴージャスなファッションが流行り、ディスコブームと相まって、当時のオシャレピープルが集った伝説のディスコ「スタジオ54」などで思いっきり自己表現をしました。このグラムロックスタイルに大きな影響を及ぼしたのがスタンリーキューブリック監督の二つの映画、68年公開の「2001年宇宙の旅」と71年公開の「時計じかけのオレンジ」です。グラムロックスタイルは「ジギースターダスト」「ベルベット・ゴールドマイン」「ヘドウィグアンドアングリーインチ」などの映画で見ることができます。

80年代以降から現在に至るまで未来的な素材が大きく脚光を浴びることはなく、デザイナー達の表現したい世界を作るファッション素材の一部として扱われてきました。

その中で特筆すべきは2007年春夏にフセイン・チャラヤンが発表したロボットドレスです。これはただ未来的なイメージの服というのではなく、モデルは何もしないのに自動的に襟の形が変わったり、ロングドレスが膝丈に縮んだり、つば広の帽子が頭に張り付く形に変わったりと、ロボット工学を用いた最新テクノロジーのドレスでした。変身アニメのキューティーハニーやセーラームーン、プリキュアなどを思わせるまさに夢のドレスです。

ただ、これはまだ実験的な段階で実用化は少し待たないといけない感じです。温暖化でこれから異常に暑い夏が常態化していくのであれば、日傘やつば広の帽子を持たなくても、屋外に出た時に室内ではコンパクトに頭に乗っていた帽子が自動的に開いてくれれば、いつも極力荷物を減らしたいと思っている私にとって、こんなに便利なものはありません。早く一般化してほしいな…値段はいくらくらいになるのかな…興味はつきません。

こうして未来的イメージについて書いていて気付くのは半世紀近く前と今とでその基本的なイメージがあまり変わっていないことです。使われている素材などは技術の向上に伴いどんどんいいものに変わっていますし、玉虫色などは新しく登場しているのですが…。「未来的」はいつ「現代的」になるのでしょう…。宇宙旅行が一般的になり、スペースコロニーなどがいくつもできたりして、「ちょっと次のゴールデンウィークに火星にいる親戚に会いに行ってくるわ。」なんていう会話がされるようになったら「未来的」ではなく現代のファッションの一部として「宇宙的」イメージという呼び名に変わるのだろうと思います。その時の新しい「未来的」イメージというのはどんなものになるんだろう…すごく見てみたい!

でも「2001年宇宙の旅」も「鉄腕アトム」が生まれたとされる2003年もとっくに過ぎてしまいました。昔の人が思っていたより宇宙開発のスピードは遅いみたいです。私が生きている間に新しい「未来的」イメージを見ることは無理かもしれませんね。

新しい「未来的」イメージを想像しながら現代の「未来的」イメージの服を楽しもうと思う私なのでした。

color&image consultant SACHIKO TAKEMURA

カラーとファッション、メイクのコンサルタント。 スタイリングアドバイスや企業研修、講演、イベント など多数の企業で実績あり。