チェックのネルシャツはダサいって言われるけれど… ’18-19AW Fashion Trend Series②

次の秋冬のトレンドとして、ワークウェアを背景にしたスタイルが色々出てきます。

消防士が着るリフレクターが付いたファイヤーマンジャケット、フラップ付きのパッチポケットのあるワークジャケットやパンツ、アメリカンなイメージのウェスタンシャツやチェックのネルシャツなど。

中でもチェックのネルシャツは市場で大きく出回りそうなアイテムです。

チェックのネルシャツと言えば、オタクでダサいと思われる代表的なものですね。外国人からも「日本のオタクはなぜチェックのシャツを着るの」と言われるほど、グローバルに浸透しています。TVでもオタクのコントで使われています。また、ものまねのB’z軍団が使っていたりと、どうにも笑いのネタになっている感が否めません。どうしてそうなってしまったのでしょう?

そもそもネルシャツとはフランネルという素材のシャツの略です。フランネルの歴史は古く、類似した織物が中世のウェールズまで遡れるので、ウェールズ起源説が提唱されていますが、スコットランド発祥説もあるので明確ではありません。フランネルという名前は17世紀後半にフランスでつけられました。そのフランネルは17世紀にスコットランドのハイランド地方で農夫達が着用していました。柔軟で弾力性、保温性に優れた生地は寒さの厳しいハイランドに適したものでした。その生地が評判を呼び、18世紀にはヨーロッパ中に広がります。それがアメリカに渡り、19世紀になってアメリカの鉄道工事の労働者達向けワークウェアとしてフランネルのシャツがデザインされ、それが今アイコニックとなっているネルシャツの元になっています。

20世紀になってフランネル生地の商品は繁栄を維持し、特に保温性のあるラギッドルック(ラギッドとは洗練されていないとか無骨なという意味。丈夫でしっかりした素材のファッションなどを指します。)としてアウトドアワーカーの間で人気になります。そしてアメリカのペンドルトン、エルエルビーン、ウールリッチといったアウトドアブランドがアウトドアワーカーをルーツとしたネルシャツを貫いて作り続けます。だからネルシャツ=アメリカンなイメージになったんですね。ルーツは違うのに。

1980年代から90年代にかけてアメリカのロックバンド「ニルヴァーナ」がグランジムーブメントを全世界に巻き起こし、ストリートファッションとして人気になります。グランジとは汚いという意味の俗語で、そのファッションとは、着古して擦り切れたネルシャツの中にTシャツを裏返して着用したり、古着を着たり、クラッシュジーンズを履くなどきちんとした大人から見れば汚らしい格好でした。

流行を捉えるのがうまい当時ペリーエリスのデザイナーをしていたマークジィコブスがその流れを受け、コレクションで発表し話題になります。(ペリーエリスは保守的なブランドなので顧客からは大不評で後のデザイナーの解雇に繋がっちゃうんですが…。グランジ感が足りないくらい、十分ブランドイメージに配慮して小綺麗なグランジ?なんか変だな?にしていると思うんですけどね。)

当時のスーパーモデル、ケイトモスが着たりして大ブームになります。

日本では90年代に流行った裏原系が影響を受け、ナンバーナインのネルシャツが若者の間に大流行します。今オシャレなブランドとして有名になっているアメリカのブランド、シュプリームのネルシャツも定番の人気商品で、それぞれのブランドのアイコン的存在となって今に至ります。

ここまでは決してダサいアイテムではなく、トレンドのオシャレなアイテムだったのです。

この大流行したのがダサいアイテムへの転落の第一歩でした。大流行すると、トレンドに追随するあらゆるアパレルメーカーが真似をして、大量生産が始まります。大量生産をすると価格が安くなり色々な所で手に入る気安いアイテムとなります。

そうなると、ファッションにはお金も手間もかけたくないというファッション音痴なオタクの人たちが手を出し、ダサい着こなしをしてしまうからダサいアイテムという認識につながるという構図です。

ちなみにネルシャツ=チェックのシャツになった理由はというと、アウトドアブランドが山登り用の服として生産した時に動物と間違って猟銃で撃たれたりしないよう目立つようにチェックにしたという説がありますが、山の中でチェックはそれほど目立たないのでこれは疑問が残ります。私としてはルーツの地の一つであるスコットランドの氏族が独自のチェックの柄を作り紋章として用いていたタータンの国なので(そのチェックをタータンチェックと呼びます。)、そのチェック柄がフランネルと共に広がったのではないかと見ています。

またまたちなみにB’zの稲葉さんの赤いチェックのネルシャツは2009年リリースの“イチブトゼンブ”、2013年リリースの“HEAT”のPVで着用されているので、グランジブームとは関係なく、アメリカンロックのイメージからだと思われます。足が長くスタイルのいい稲葉さんが着るとすごくかっこいいですよね。B’z軍団だとダサいのに…。

女性が着るとそこまでダサい印象ではないと私は思っているんですが、決して、Gパンやチノパンにシャツをインして着てはいけません。ましてやそれにリュックなんて論外です。

来季は特に色々あるチェックの中でもバッファローチェックに注目です。

そして女性らしいアイテムと組み合わせて着るのがおすすめです。光沢素材のスカートと合わせたり、ランジェリードレスの上に羽織ったり、他のトレンドアイテムとMIXさせてオシャレに着こなしてください。

せっかくの素晴らしい歴史を持ったネルシャツです。ダサいイメージのままなんてもったいないじゃありませんか。オシャレなネルシャツ女子が街中に溢れてそのイメージが払拭されることを切に願います!

color&image consultant SACHIKO TAKEMURA

カラーとファッション、メイクのコンサルタント。 スタイリングアドバイスや企業研修、講演、イベント など多数の企業で実績あり。