ボリュームファッションってどうですか?’18-19AW Fashion Trend Series①

次の秋冬、ボリュームシルエットのファッションがさらに加速してきます。

2016年にデムナヴァザリアが新生“バレンシアガ”と自身のブランド“ヴェットモン”で極端に大きなシルエットの服を発表し話題をさらって以来、継続してトレンドとなっていますが、より浸透し大きな流れになっています。来季は特にアウターに注目でコートやブルゾン、ジャケットなどにボリュームが加わり、大きな肩や長い袖、服の中で体が泳ぐようなシルエットになっています。キルティングやダウン、中綿入りのパッテッドでモコモコした肉厚な量感が特徴です。

ボリュームのあるファッションは、歴史の中で何度も繰り返し登場していますが、最初に登場したのは14世紀頃。それまではユニセックスで男性も女性も比較的同じようなファッションをしていたものが、この頃からはっきりと区別されるようになってきます。当時はカットと縫製技術が発達し、腕のいい職人達が生まれ、色々な服が作れるようになってきました。そうなると、お金を持った上流社会の人たちは他とは違うものが欲しくなります。そこで男性は肩にパッドを入れ、逆三角形の男性らしいシルエットを追求しました。女性はそれまでの延長のほっそりとしたシルエットのままで、ボリュームといえば、ドレスの裾を後ろに引くトレーンが付いたぐらいでした。男性の極端なボリュームは服だけにとどまらず、“プーレーヌ”と呼ばれたつま先が長くとんがった靴が流行ります。長すぎて歩くと自分の靴先を反対の足で踏んでしまうぐらいで、当時の作家が「普通の靴より15cmものとんがりがある、お金持ちだと30cm、王侯貴族だと60cmもの長さだ。」と書いています。長すぎて歩けないので靴先に鎖をつけて自分の膝に結びつけた。というほどの馬鹿げたものでした。

15世紀にはますます大げさなボリュームファッションになっていきます。ものすごく広く見せた肩幅とパッドを入れて膨らませた袖、身頃はぴったりしていて、半ズボンが風船玉のように大きく膨らんできます。パッドが大好きな時代でした。この時期ユニークなのは“コッドピース”と呼ばれたもの。男性の大事な部分を大きく見せるためのものでした。「ヘンリー8世の肖像」でどんなものか分かりますね。女性にもパッドは当たり前のように使われましたが、男性ほどの大げさなものではなかったようです。

16世紀になると女性ファッションにも極端ボリュームの波がやってきます。この頃女性もファッションの主役に躍り出て、ヨーロッパ随一の権勢を振るうようになったエリザベス1世がものすごくボリュームのある服を着て肖像画に描かれています。映画「エリザベス」の中で比較的忠実に再現されていますが、やはり現代の感覚に合わせてボリュームは少し抑えられていますね。この時のユニークなものは大きな襞襟の“ラフ”です。大きなものは30cm〜40cmもあったようで、垂れ下がらないように下に針金製の支えを使い、しっかり立つように糊付けもされていました。更に“ファージンゲール”と呼ばれるフープ入りのアンダースカートが生まれ、スカートが大きく膨らみました。胴体以外は全てボリューム!だったのです。ボリュームを出そうとするとその分布地も縫う職人も多く必要な訳で、富と権力の象徴として威厳を示すための演出でした。(余計に反感買いそうな気もしますが…)

17世紀には少し服のボリュームは落ち着きますが、その分ヘアスタイルが大きくなります。ルイ14世の愛人だったフォンタンジュが流行らせた高く結い上げた髪。男性のかつらも幅も長さもボリュームアップします。映画「英国式庭園殺人事件」で当時の様子が伺えます。

更に18世紀、マリーアントワネットの時代にも再び突然変異のような大きなヘアスタイルが登場します。これは有名な話ですね。権力を振るい過ぎた王侯貴族に嫌気が差した市民によってフランス革命が起こり、市民に権力が移るとボリュームで権威を示そうというファッションはなりを潜めます。そこで面白いのが“アンクロワイヤーブル”と呼ばれた一部の伊達男たちが大きな襟のコートに大きな襟巻きをぐるぐる巻きつけて喜んでいたことです。お金はないけど権力を握った自分達を誇示するためだったのでしょうか。

19世紀に再び上流社会で“クリノリンスタイル”というかなり大きく膨らませたスカートのファッションが登場しますが、歴史服としてはここまでです。

20世紀にファッション革命が起こり、現代の服に変わって以来、最初にボリュームが注目されたのは1950年代にディオールが発表した“ニュールック”です。第二次世界対戦中、贅沢は禁止という風潮がありましたが、たっぷりと布地を使った大きく膨らんだ膝下丈のスカートが、戦争中苦しんだ人々にとって、贅沢で新しい!と受け取られました。

その後80年代にボリュームのある肩パッドの時代がありました。この頃の肩パッドはアメフトの選手のように大きくて、薄地の服だと肩パッドが支えられず、前後にずり落ちてしまうくらい、とにかくなんでも肩パッド!でした。日本では経済が上向き、バブルの時代だったので、イケイケドンドンな気分で一種の権威を示すために流行ったのだと思います。

じゃあ今のボリュームは何を示すのでしょう?特に主張する権威を持たない私たち。せめて服の威光にあやかりたい…ということなのかもしれません。

ボリュームセーターだと上着を着ることができないし、ボリュームコートだとカバンが肩にかけづらいし、袖が長いと邪魔になるし…で、かわいいしオシャレだけど何かと不便なボリュームファッションですが、大きな流れがくる来季は様々なボリュームアイテムが市場に出回る当たり年と言えるでしょう。自分の気に入るものに出会えるかもしれません。気になる方はぜひ取り入れてオシャレの権威高めてみませんか?

color&image consultant SACHIKO TAKEMURA

カラーとファッション、メイクのコンサルタント。 スタイリングアドバイスや企業研修、講演、イベント など多数の企業で実績あり。